ウェディング・ドレス姿のメイベル嬢

以前掲載したAIRINさまの小説に挿絵イラストを入れさせていただきました。
(イラストをクリックしていただければ、等倍のサイズで見れます。)
画像

ウェディング・ドレス
by AIRIN
 
鐘の音が、聞こえる。
ポワロは、小さな息をひとつ吐き出して森の中の教会をあとにした。
花嫁と花婿をたたえる歓声は、すぐに遠ざかった。

今回の依頼は、盗まれたウェディングドレスを取り返すこと。
胸元に大きな宝石をあしらったそのドレスは、今、ポワロが祝福してきたばかりの花嫁が着ていたものだった。
簡単な依頼だったな、とポワロは思い返す。これ見よがしに宝石で飾った白いドレスは好きになれなかったが、依頼人の服飾店のオーナーも花嫁の女性もそれほど感じの悪い人間ではなかった。

「ポワロさん」

ポワロの思考は突然目の前に現れたメイベルにさえぎられた。
清楚なレースをふんだんに使った純白のドレスに身を包んだ彼女をまじまじと見て、ポワロは息を呑んだ。

「オーナーにお願いして着せていただいたんです。どうしても一度着てみたくて」
メイベルは眼を伏せてそう説明した。
「だって、貴方を好きでいる限り、きっと私は、一生ドレスを着ることができないと思うから」
「メイベル」
ごめんなさい、という言葉を飲み込んで、ポワロは花嫁のベールをもちあげた。
「とても、綺麗ですよ。その、私などにはあまりに勿体無い」
「ありがとう」
「……愛しているよ」
誓いの口付けの後、ポワロは囁いた。
「はい。……私も」
睫毛を僅かに光らせて、メイベルはポワロを見つめて微笑んだ。

遠くで、再び鐘が鳴った。
それを合図にするように森の鳥達がいっせいに飛び立つ。
春の穏やかな日差しが、メイベルの顔をやさしく照らしていた。
 
 
END
posted by 霧 at 22:43Comment(0)TrackBack(0)

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